「インテリジェンスを生産する仕事」
──山田さんにとってデータサイエンティストとはどのような仕事ですか?
分析技術を使って、データからインテリジェンスを生産する仕事です。
インテリジェンスとは意思決定者の利益に資するまでに洗練されたインフォメーションのことです。
僕自身、インプットがデータだとすると何をアウトプットに仕事をしているんだろうと考えた時に、
例えば国家にはMI5/6やCIAなどの情報機関がありますが、そこでは意思決定者がポリシーに基づいて意思決定ができるように分析を行い、その分析結果として出るアウトプットを一般的にインテリジェンスと呼びます。
僕の仕事も同様にデータからインテリジェンスを生み出して、人の意思決定を支える仕事だなと。
そういった意味で、僕にとってのデータサイエンティストとは、「意思決定者の利益に資するようなインフォメーションであるインテリジェンスを生産していく仕事」です。
データサイエンティストが介在することで、組織のいたるところで意思決定が円滑になればいいなと思っています。
──機械学習・データサイエンスの道に飛び込んだきっかけはありますか?
この分野に興味を持ったのは、大学の卒論で渡辺澄夫先生に機械学習(当時はデータマイニング)に関するテーマを紹介してもらい、そこから機械学習ベースの分析に興味を持つようになりました。
大学院はゲーム理論を用いた意思決定に関するテーマを扱ったので、今もそれら興味の延長線上にいる感じです。
何か特別な体験があったというよりは、大学に通っている中で数少ない興味を持った分野がデータ分析や意思決定に関するものだったという結果論的な感じです。
新しい発見をしたいという「依存症気質」
──会社のHPに「インテリジェンスの生産に貢献したい」と書かれていますが、その想いにはどういう経緯で至ったのでしょうか。
20代中盤、会社をやめて半年くらいフラフラしていた時期がありました。
その時、何なら自分は熱中できるのかずっと自問自答している中、ある外資医療系コンサルのサイトにたどり着いて「科学的アプローチによる意思決定支援」のような文言を見たときに、こういう方向性でやりたいと思えたことが、分析を本業としたいと腹を決めた瞬間だったと思います。
当時26歳くらい。今とは全くジョブ・マーケットが違いました。
──現在ご自身の会社ではどのようなサービスを展開されていますか?
受託分析サービスでは、例えば、推奨システムのアルゴリズム開発などを地道に支援させてもらったりしています。
比較的ホットなグラフ特徴量の活用やlearning to rankといった新しくはないですが実直に続けられているテーマに対し解析と検証をクライアントと歩調を合わせ取り組ませてもらっています。
またアドバイザリーとしてクライント企業の人材育成やメンターのような役割をお引き受けすることもあります。
また少しでもサービス提供間口を広くできるようオンラインサービス(CIオンラインプラス)も提供させてもらっています。
──今後成し遂げたいビジョンはありますか。
もともとゲーム理論とかをやっていたので、行動経済学・認知心理学の発展によって意思決定科学の活用をどこかで表現したいとは思っていますが、なかなかビジネス実務として浸透させるのは難しいと思っています。
今のところはこの取り組みの挑戦が心の最後の火の一つです。
もう一つは分析者として、制御やロボティクスといった文脈でななく強化学習ベースの分析を自分の中でもっと整理してみたいという思いはあります。
先に分析はインテリジェンスの生産手段と言いましたが、やはり、人は新しいことに気付いた時の喜びの中毒者だと思っていて、同じデータからも何か新しい発見をしたいという「依存症気質」がモチベーションになっているのかと思います。
天才とは戦わない
──これまで転職を繰り返し、様々な企業を経験されていますが、一貫した軸などはありましたか。
外資医療系コンサル会社以降、アナリティクス職のみでやって来ています。
YahooやGREEのようなテック系、ブレインパッドのような受託系、また他に外資系など水平的移動はしましたがジョブロールは常に分析でした。
ここで戦略的なロールに移るとか、賢い人はそういうキャリアを歩む人もいるんですけど、良いか悪いかはともかく僕はずっと分析をやってきました。
データベースマーケティングやCRMといった2000年前後の技術をベースにデータマイニングブーム、データサイエンスブーム、ビッグデータブーム、そしてAIや機械学習ブームへと変遷しましたが、分析役割の本質に対する意識が変わった感じはしていません。
──業界のトレンドなどはありますか?
分析業界の裾野は確実に広がり東大やアイビーリーグなどアッパーサイドに多くの「化け物」が登場するようになったと思います。
一芸に秀でないと生き抜けないという意見も正しい反面、化け物は何でもできるように見える。
僕が三日ぐらい必死こいて読んだ論文を目の前でぱぱっと読んで、「山田さんの言ってることの解釈でいいと思う」と言われた時は驚きましたね(笑)
凡人が百人やってもできないことを天才三人でできると言われているような分野です。
その中で卑屈にならずにどうやって生きていけるかが現実問題として大事ですね。そっちの人の方が多いので(笑)
とにかく技術を扱う側、供給サイドは大きく変化したと思います。
ただブームが続き、バズワードが連鎖したことで、言葉さへも安易に消費され、その言葉の本質を吟味する前に次のバズワードが生まれる。
あの頃騒いだビッグデータなんて今誰も言わないし、データサイエンスって何ですかって聞いても答えられる人はほとんどいないと思うんですよね。
これだと地に足を付けてキャリアを築きたい特に若い世代は、対応が難しいかもしれないとは感じています。
DXチームに配属されたのに、5年後そのチームがなくなっていて別の名前になっているとかだと、キャリアってどう築けばいいのって話ですよね。
──今初学者に戻ったらどういうキャリア戦略を取りますか?
多分今のマーケット環境だと機械学習やデータサイエンスをやろうとは思わなかったかもしれません。
もう随分昔ですが学生の頃に自分と約束したことは「天才とは戦わない」こと。
当時さりげない会話の中で「山田くんは受験勉強頑張って大学に入った側なんだ」と言われて悟りました(笑)
今だったら汎用AIなど誰も実現していないものを表現するような、みんなが憧れるAI像ってあると思うんですけど、そういう正解を求めていくと天才との勝負になってくるので。レッドオーシャンになった世界には行かないと思います。
なのでそういう人が参入してくる前の役割を探して身の丈にあった貢献ができることを考えると思います。
別にデータサイエンスをやってもいいと思いますが、世間が正解とする姿に縛られてキャリアを考える必要は無いと思っています。
データの神様に愛されるまで
──プログラミング初心者やこれからデータサイエンスを志す人に一言お願いします。
技術なので結果が出るまで時間がかかって当然ですし、どのようなデータサイエンティストになりたいとか、どんなAIエンジニアになりたいといった目標像を持つこと自体も簡単ではないと思います。
色々試行錯誤しないとわからないですよね。
いつ終わるかわからない課題ほど過酷な課題はないと思いますが、答えを焦らず皆さまを支援してくれるご縁を大切に取り組み続ければそれで良いで良いのではないかと思います。
最後まで続ければ、もしかしたら今よりも「データの神様」に愛されて、今は想像もつかない景色が見えるかもしれない。そんな感覚でマイペースで無理なく取り組んでみたら、どうでしょうか。
──データの神様とは?
例えばレントゲン写真とか、僕たちが見ても何も分からないですけど、トレーニングを積んだ人なら色々知覚できるじゃないですか。
単に経験からくる直感だと思うんですけど、データにも同じようなことが言えて、誰かがクレンジングしてくれているデータは見た瞬間美しいと感じるんですよね。それはファイルパス一つとっても分かります。
実際には僕たちの無意識が知覚しているんだけど、意識としては内部からの信号じゃなくて向こうから語りかけてくれているような気持ちになります。
そこまでの境地にいたることは簡単ではないですが、焦らず実直に取り組んでいくと、いつかデータの神様が微笑んでくれる日が来るのではないでしょうか。
東京大学工学部システム創成学科。株式会社CodeCoaching代表。
プログラミング学習における異様な挫折率の高さや、スクールの高額な料金設定に問題を感じ、プログラミング学習を民主化するべくプログラミングスクールCodeCoachingを創業。
受験生時代、本屋に行っては参考書を立ち読みするほどの教材オタクで、田舎の県立高校から独学で東大に合格。
受験が終わった今もそのクセが抜けず、日々プログラミングの教材を見つけては研究している。佐賀県出身。趣味はフットサル、銭湯巡り。